農園だよりDiary

2023年3

2023.03.06
 皆さん今日は。

 先日(3月6日)阿蘇に春の訪れを告げる、恒例の「野焼き」が行われました。阿蘇には以前5万㌶(東京ドーム1万個)の原野があったとされていますが、杉、ヒノキが植えられたりして現在は2万㌶くらいになっています。以前は日本各地にこういう原野があったそうですが開発により今では北海道、富士山麓そして阿蘇に残されています。阿蘇には沢山の人達が雄大な自然を求めて観光に来ますが、この自然は人の営みによって作られた物なのです。人がかかわらず、本当の自然任せにすると草原の中に低い木が生え、その下の草はなくなり、やがて低い木の林になります。次はその中に高い木が生えその下の低木はなくなり、やがて高い木の林になります。阿蘇は住民の殆どが昔からの農家で農耕の家畜を飼い、機械化された後は肉牛の為の子牛を育てる畜産をして原野の放牧や草刈りが必需の日常だったのです。今でも地区ごとに「牧野組合」があり、組合員は原野を利用する権利を持っていますが、秋に「防火帯つくり、」春は「野焼き」に参加する義務も負っています。草の利用は少なくなりましたが毎年野焼きをすることにより低い木が生えるのを抑え、草原が維持されています。昔は家の屋根とか馬車馬の餌とか、農耕の牛の餌、燃料、肥料、農具、いろんな身の回りの必需品の材料に使われていたので日本各地にそういった原野が大切に管理されていました。しかし今では瓦葺の屋根さえ少なくなり、トラック物流、農業は機械化、化学肥料、身の回りにはプラスティック製品が溢れ原野の草は非効率、不用品となってしまいました。地域で大切に守られていた日本各地の原野は開発され宅地、工場用地になっていったのでしょう。

 先日の野焼きは近隣市町村の隣接牧野組合1万㌶で、昨年の野焼きでは観光客が火に巻かれたり乗用車が数台焼ける事故が発生した反省から今年は一帯の国道、県道を通行止めにして観光客を排除して行われました。先週は連日の晴天でこれは昨年以上の野焼きになるぞという予感がありましたが、前日夕方、通り雨が降り、朝一番の「火入れ」はなかなか火の着きが悪く、スカッとする野焼きではありませんでした。現場は平らな所、急峻な所、風向きを見ながら慎重にかつ大胆に火を着け、防火帯を利用して消して取あえず今年の仕事は達成できました。どこの牧野組合も高齢化が進み若い人の参加が少ないのが課題です。年に何度もない組合員が集まり原野を駆け回り汗を流すこの機会。昼食のおにぎりを頬張りながら「あれはどこの息子かね?」と情報交換や、作業の伝承もまた大切な仕事の内です。

 「野焼き」はCO2を吸収して育った草を燃やしてCO2を出すからプラス マイナス ゼロだと言われてきましたが、焼かれた草は灰にはならず炭になり土に積もります。最近の研究では阿蘇で行われる活動の排出量の1.7倍の炭素を土の中に閉じ込める働きがあるのだそうです。加えて畜産の餌や畑の野草堆肥、文化財のカヤ屋根修復等燃やさない、いろんな活用により原野のCO2貢献が確認されています。また九州北部主要河川の源流は阿蘇にあります。森林では高い所の葉に付いた雨水は地面に落ちるまでに空気中に蒸発するので、草原の方が雨水を効率的に地中に貯める力が強いのだそうです。私達阿蘇の住民は今までそんなことには無関心。秋まだ暑い日の「防火帯」作り、3月は天候不順で「野焼き」は予定通りには実施されず毎週日曜日は「野焼き予定日」。ご先祖様から受け継いできた財産を守る事だけ。ところがそんな何でもない自分たちの営みが地球環境という大きな営みの中で小さいけれど貢献をしているんだと聞かされると嬉しくなります。
 我が家では有機トマトも栽培しています。もちろん原野の野草を堆肥にしての土つくりです。阿蘇はユネスコの世界農業遺産に認定され、熊本県ではPR動画を作製しました。私も少し出演しています。弊社HPか、ユーチュブ「探訪、阿蘇世界農業遺産」でご覧になれます。
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