農園だよりDiary

2023年5

2023.05.10
 皆さん今日は。

 桜の季節も過ぎ、山々は新緑に覆われ、心が洗われるようです。5月は田植えの季節。兼業農家や高齢農家では連休を利用して家族総動員で田植えが行われ、多くの田んぼに早苗が植え付けられましたが、我が家は例年通りのスケジュールで進める予定です。4月20日に蒔いた種籾はすくすく成長して、また合鴨の初生ヒナも10日に来る予定になっています。5月10日の定期便発送が済んだら田植えの準備の代掻きを始めます。

 先月号でも子供の頃の思い出を綴りましたが、ゴールデンウィークを前に地元紙のコラムに開高健さんの金言として「食事は地面に近い方が美味しい」が紹介されました。野山や河原でレジャーシートを広げての食事は最高ですが、この記事で思い出してしまいました。子供の頃、天気の良い日の昼食、「今日はお縁(縁側)で食べようかね」母のこの一言で姉たちは一斉に日当たりの良い縁側に台を出して台所から食器を運びます。料理といっても昔の自給自足に近い質素な農家の食生活。玉子焼きでもあれば御馳走です。広い農家の間取りの中で台所は北側にあり、五月晴れの外は清々しい陽気なのに光の差さない北側では御馳走でも美味しくありません。日当たりのいい縁側で家族そろってのお昼ご飯はたった何メートルも移動していないのにどこか違う所に遠足に行ったような気分にさせてくれて最高でした。また、田植え機のない時代。田植えの忙しい時期になると土日は家族総動員です。お昼ご飯の時間も惜しんでの事でしょう。母は丸い大きな「塩おにぎり」をたくさん作り、おかずは高菜漬け。お昼の時間になると田んぼの水でサッと手を洗い、道端にゴザを敷いて重箱を広げ、家族みんな輪になっておにぎりを頬張りました。働いた後の塩おにぎりはこれまた最高でした。テレビのグルメの番組を見ていると良い食材を使い味付け、盛り付けに心を配り最高の料理を提供するのが多いです。しかし只の塩おにぎりと高菜漬け。皿も箸もなく、手掴みなのですが目の前に見える阿蘇山や外輪山、田んぼや小川すべてが食器なのです。そしてお腹をすかせ、家族皆で食べることで極上の食事になったのでしょう。

 私は旅行が好きで海外にも行きました。好き嫌いはありませんので何でも食べます。大きな旅行会社のツアーは日本人好み化しているのでプライベートツアーが好きです。食べ物もその国の人が食べているものを食べる事が出来ます。暖かい所はあっさりとした物、寒い所はこってりとした物が多いようで、気候と食事には深い関係があるようです。アルコールもまた、その国で良く取れる物が原料で寒い所は蒸留酒、暖かい所は醸造酒が多く、食べ物と酒は良くマッチしています。旅行の大きな楽しみの一つは食事ですね。中国には何度も行きました。特に東北地方ではニンニクやトウガラシの効いた、こってりとした料理にコウリャンの蒸留酒、白酎(パイチュウ)
が良く合います。あまりに美味しいので飲み過ぎると40~50度のアルコールに足がとられてしまいますのでご用心。お美味しいのでお土産に買って帰って刺身とか和食の御馳走の時に飲んでみるとどうもしっくりしません。やはりその国でその料理を食べながら飲むのが一番良いようです。料理もやはりそのようで日本での中華料理は日本人の舌に合うように変えてあります。

 「身土不二」体と土は二つにあらず。その土地で採れた物を食べ、生活するのが良い。大昔の仏典を起源とした食の思想ですが、今の時代にこそ大切にしはければならない考えのようです。沢山の含蓄があるようですがその中の一つに、身近で採れた食べ物は作った人も食べる人も顔見知りで信頼関係があります。距離が遠くなると信頼関係も希薄になり栽培方法も営利主義が強くなります。海外で栽培された農産物は、信頼関係はまったくなく、完全に営利の為の商材で誰が食べているのかなど論外です。昔食べた母の塩おにぎりは愛情たっぷりで御馳走ではなかったけれど無上の美味しさでした。
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