農園だよりDiary

2022年6

2022.06.05
 皆さん今日は。5月は季節が暖かい方に向い、気温の具合も良く植物も芽吹き清々しい風、一年の中で一番気持ちの良い季節ですが米つくり農家にとっては一番忙しい季節です。5月11日、鴨のヒナがやって来ました。生まれたばかりなので本当にか弱いのですが段ボール箱に入れられ、大阪から今回はトラック便でやって来ました。小屋の中では寒いと団子状に集まり、中心の子は圧死するので電気炬燵で温めて育てていました。そんなヒナ達の世話をしながら田植えの準備ですが、毎日好天が続き一連の作業が順調に進み、15日には田植えが終わりました。稲の苗も太陽の光を十分に浴びてしっかり根付きました。普通の米農家は除草剤を撒いて一段落なのですが、合鴨農家は、まだまだこれからが大変です。また農村社会は田植えの時期には行事が控えられますが、それが終わると一斉に再開されるのでこれも大変です。田植え後のトラクターや田植機の洗浄もそこそこに、田んぼに網を張り犬やキツネ、空からはカラスに備えて電気牧柵とテグスを張り、合鴨を放す準備を進めます。稲の苗もしっかりし、小さかったヒナ達は、わずか3週間で大きく育ち外の環境に耐えられるようになったので、6月3日から順次、田んぼに放しています。小屋の中から広い田んぼにやって来て始めてみる世界にびっくりしているのか、みんなキョトンとしています。しかしこの数秒後、1羽のヒナが水に入るとみんな一斉に後に続き、もう夢中で水中のミジンコや何か食べ物を食べているようです。見飽きない光景です。

 振り返ると、昨年の今頃は悲惨な毎日でした。田植えの翌日から毎日の大雨大風で苗は泥水にまみれて生気を無くし、回復するまでの2週間、雑草が芽吹いてくるのにも目をつぶり、田んぼを干上がらせ苗が再生するのを待つ日の長いこと。そして長い長い田の草取りの日々が始まったのでした。農家は毎年同じ作業をしているように見えるでしょうが、去年の反省や周りの人の情報などを取り入れたりして少しずつ違った事をしているのです。これが上手く行った時にはいいのですが思惑が外れたとき、気象という前提条件が崩れたときには痛い目に合わなければなりません。田んぼは均平のようですが若干の高い所、低い所があります。低い水深が深い所は雑草が少ないのです。昨年は水管理を深くしようと思い、大雨の日にも水深を下げなかったので悲惨な結果になってしまいました。雑草が生えないように楽をしようと思った自らが招いた結果でした。

 二十歳で就農して46年目。米を基本に色んな作物を栽培しました。慣行栽培のトマトとイチゴはこの間までやっていましたが息子に譲り、今は小規模な自分専用ハウスを建て有機JASのトマトを栽培しています。農業は毎年1年生です。毎年違う課題が突き付けられ解決に悪戦苦闘ですが稀に上手くいくときがあり、良い気持ちにさせてくれて、やめられなくなってしまうので要注意です。私の周りにはそんなやめられなくなってしまった人が沢山います。阿蘇だけではなく、全国の田舎に共通する事でしょうが私より年上の人が殆どで、みんな肩が痛いとか腰が痛いとか言いながら大型機械を乗りこなし、広い田んぼで汗を流して、大きな声で会話し、ストレスとかいう事には無関係な環境の中、毎日現役で仕事をしているので頭は冴えていますよ。高齢者福祉という言葉がありますが今の日本は高齢者によって支えられているようです。

 国はこれからの日本の農業についてAIとか先端技術により改革していくそうですが古い農家の知恵とか腰を曲げて草取りをする事などは論外のようです。毎年毎年1年生の積み重ねで作り上げられた技術は泥臭くて若い人には敬遠され、手間の掛からない農薬、除草剤をジャンジャン使った、高齢者や大規模農家が楽に生産できる技術開発が優先されることでしょう。無農薬、無化学肥料で栽培する農家は少なくなっていくのでしょうが、人がやめるという事は逆に継続する意味が益々大きくなりますね。
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